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Wolfgang Gil (Concept - Sound Design) and Miyuki Oba (Architect)

《Enter the Tunnel》は、ギルが2021年に構想した50.2chの没入型サウンドインスタレーションです。「聴くこと」を、感覚・感情・身体感覚が常に変化し続ける内なる里山のような風景として捉え直します。越後妻有の棚田や森、川といった原風景を直接的に描くのではなく、「自然の一部としての自己」というあり方に焦点を当て、音によってその内側を探っていきます。 真っ暗な空間の中で、音は垂直・水平方向に配置されたスピーカーから放たれ、壁・床・天井へと広がりながら、前方から後方へと長い軌跡を描いて移動します。ときに濃密で圧倒的に、ときにまばらで遠くから聞こえるように、雲のかたまりのようなテクスチャーを持つ音が空間を通り抜けていきます。そのたびに、来場者のスケール感や位置感覚は静かに揺さぶられ、身体が小さくなったり大きくなったり、部屋が縮んだり広がったりするような感覚が生まれ、内側と外側の境界が曖昧にしながら音と建築を通してスケールを横断していきます。 この作品は、ニューアーク美術館(米国・ニュージャージー州)や東京のContrast Galleryで発表された8.1ch作品《Not Here, Nor There — Aural Fields Zero》など、これまでのマルチチャンネル作品を土台としつつ、「こう聞こえるはずだという予想」と「実際に体験する音」とのあいだに生じるギャップに意識を向けます。来場者は、自らの注意・記憶・緊張・解放といった「内面の感情」が、音に応答して瞬間ごとに変化していく様子に気付かされます。 最終的に、このインスタレーションは「どこか遠い世界へ旅をする」ことよりも、聴くことを通して、もう一度改めて自分自身と出会い直すことを目的としています。

手法、素材、サイズ

50.2chサウンドインスタレーション(フルレンジスピーカー50台+サブウーファー2台)を
長さ約12m × 幅約5〜7m × 高さ約3〜4mの最小限の光で構成された空間の壁面・床の周縁部・天井にスピーカーを分散配置して没入感の高い「音の雲」を形成しています。手摺や床材は音を透過する多孔質性のものを採用し、エントランスでは音の揺らぎを光の反射として可視化した反射するカーペットを用いたインスタレーションをつくります。

【会場と越後妻有との関係】

本作品は、越後妻有が長年取り組んできた「既存の建物を作品や宿泊施設、コミュニティスペースとして再生する実践」を受け継ぎ、普通の一軒家を会場とする計画です。今回は仮想の場所ではなく、アーティスト自身がすでに取得した実在の建物で行います。会場となるのは、十日町市下条にある空き家で、地域では「山木邸」の名で知られてきた家です。

山木邸は、何十年にもわたり、地域に住む人々が結婚式や誕生日祝い、お葬式などの節目に集い、また日々の暮らしや地域の課題について語り合ってきた場でした。そこには、笑い声、涙、音楽、日常の会話といった生活の音、そして人生の大きな変化の音が折り重なってきました。かつては食事や儀式を囲んで集う家だった場所を、今度は「聴くこと」「クリエイティブテクノロジー」「おいしいコーヒー」を囲んで集う家として再生します。

現在、この建物はアーティストとその協働者によって運営される小さな文化拠点として生まれ変わりつつあり、すでに教育プログラム、ライブ音楽イベント、地域密着型のさまざまな活動がスタートしています。《Enter the Tunnel》は、こうした動きの新たな軸となる常設サウンドインスタレーションとして構想されています。既存の教育プログラムやライブ音楽イベントと連動しながら、下条への来訪者を増やし、地域の人々がふたたび山木邸に足を運び、出会い直す場となることを目指します。

さらに重要なのは、このインスタレーションがオフシーズンには空間音響・リスニング実践・参加型フォーマットの研究施設として機能する点です。ここは、国内外から招くアーティスト、音楽家、研究者のための国際アーティスト・イン・レジデンスプログラムの中核インフラともなり、新作の制作や実験の場であると同時に、地域の子どもたちや若者たちに知識や経験を還元する場ともなります。

このように、本プロジェクトはアート・リサーチ・コミュニティサービスの力を組み合わせることで、地域に再び火を灯すことを目指します。結婚や死、祝いごとといった人生の節目を記録してきた家の歴史は、トンネルの内部へと一歩踏み込む体験を通して、もうひとつの「閾(しきい)」—自己認識と感覚の変化という内的な閾—を探る場へと拡張されていきます。

「Enter the Tunnel」のモーションスタディとシステムデザイン

【ビジターエクスペリエンス(体験と導線)】

以下のテキストは、ウォールテキストやガイド、来場者体験の説明文として利用できます。

一見すると、どこにでもある普通の家に入っていきます。玄関で靴を脱ぎ、二階へと上がってください。小さな抽象的なテキストが書かれたドアが一枚、あなたを待っています。

トンネルは「器」であり「媒体」でもある——いま・ここ と、どこかわからない行き先をつなぐ技術的な橋。

旅は、緊張からはじまります。トンネルの中で「こう感じるはずだ」という期待と、「実際にいま感じていること」とのあいだのギャップが少しずつ広がっていくとき、その隙間には戸惑いと心もとない感覚が生まれます。このトンネルはいったいどこへ、何のために私を連れていくのか——目的も経路もはっきりしません。

やがて、抵抗感がほどけていくと、トンネルの原初的な言語が立ち現れます。テクスチャーを持った音、光、圧力、動き。雲のような巨大な音のかたまりが船体の中を行き交い、はっきりした方向性を帯びて通り過ぎていきます。その圧倒的な存在感は、私たちのスケール感を塗り替え、意識の矢印を内側へと向け直します。

トンネルの奥へと進むにつれ、焦点は「自分」そのものに絞られていきます。— どう感じるべきなのか? そして、実際にいま何を感じているのか? 旅は次第に内省的なものへと変化し、最終的には、斜めに傾いた鏡のように、これまでとは異なる角度から自己を映し出します。

ドアを開けてください。真っ暗な部屋に入り、スロープを上って、中央に立ちます。音に身を委ねてください。

20〜30分程度のサイクルの中で、来場者は「緊張 → 方向感覚の喪失 → 受容 → 深い内省」という段階を行き来します。この作品は、聞こえてくる音そのものだけでなく、「自分がどのように聴いているのか」に気づいてもらうことを促します——プラットフォームの上で身体の重心がどのように移動しているのか、呼吸がどう変化するのか、時間の流れが速くなったりゆっくりになったり感じられるのか、といった細やかな変化に意識が向かうようデザインされています。

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